中野 谷川さんがジャズを聴くキッカケはなんだったんですか?
谷川 高校の時はディープ・パープルのコピーバンドやってたんですよ。ものすごくハードコアなコピーバンドで、ギターとドラムスが少林寺拳法部の主将と副主将で。とにかく下手くそなんだけど、ガッツと体力だけはあるっていう。
中野 (笑)
谷川 で、僕はキーボード。小学校1年から6年まで母親に強制でピアノをやらされてたんですけど、自発的に音楽に関わったのがその頃です。で、高校卒業後はプー太郎になってぷらぷらしてたんですけど、やっぱり音楽やりたいなぁというのはあって。でも芸大の入試要綱をみたら、モーツァルトのソナタ何楽章を弾かなきゃいけないとか、もう全然やったことないものが出てきて(笑)。そんな時に友達からジャズの学校に行くのもひとつの手じゃないかって言われて、アンスクール・オブ・コンテンポラリー・ミュージックに。六本木の防衛庁の前にあったんですよ。
中野 その学校の存在自体、まったく知らなかった(笑)
谷川 今は幡ヶ谷にあるみたいなんですけど、そこのピアノ科は試験もないし、フリーパスでおいでおいでって感じで。それでまず1年の時は、ハードバッパーの先生で。ジャズはバップである、と。
中野 それは何年頃ですか?
谷川 1978年とかでしょうね。
中野 じゃあ、時代的にはすっかりバップが落ち着いて、フュージョン全盛の頃ですね。
谷川 そうです、そうです。ただその先生は、まずフュージョン禁止ですよ。
中野 禁止?
谷川 勝手に家に帰って聴くのはいいけれど、絶対君らのためにならないから、やるな、聴くなと。ビル・エヴァンスも厳禁。モダンなハーモニーと左右のコンビネーションっていうのが革新的なことをやってるから(笑)。なんとなく、リー・リトナーとかラリー・カールトンとかを聴きながら、こういうのがジャズなんでしょ〜って感じで入ったのに、全部禁止令ですよ。いきなり(笑)。
中野 最盛期なのに(笑)。
谷川 推奨されたのは、バド・パウエル、ハンプトン・ホース、ソニー・クラーク、バリー・ハリス。全員ごりごり系。
中野 なるほど(笑)。バップのベーシックなピアニストばかりですね。
谷川 そうそう。だからピアノ科は地味なことやってんねってバカにされて。講師には板橋文夫さんのような大物もいらしたんですけど、板橋クラスも最初はバップでした。とにかくまずバップをやるってことで、ソロピアノはだめ、初心者にはピアノトリオが基本だ、と叩きこまれて。それで次に学校の事務方の人が弾いているベースとドラムが入ってるカセットを売りつけられて(笑)それを再生しながらピアノを弾いてセッションするところから始まった。
中野 じゃあ、ジャズの初共演の相手はカセットテープなんですね?(笑)
谷川 はい。でも最初は全然好きじゃなかったんです。ジャズ理論の授業もあるんですけど、それまではディープ・パープルやってた人間なんではじめは全然判らなかった(笑)。でもやってくうちに、この人たちのやってる音楽の土台はこういうことなのかと判ってくると、だんだんジャズが好きになっていきました。
中野 僕はいまだにジャズの難しい理論は判ってません(笑)楽器がまったく出来ないから今いち把握し切れないところがある。コードやモードも理屈では理解してるんですけど、実際には判ってないと思う(笑)
谷川 いや~、でも実は深く掘り下げれば下げるほど判んなくなります。
中野 やっぱり判らないです?
谷川 よく云われてるけど、『カインド・オブ・ブルー』の「SO WHAT」、キャノンボール・アダレイは「今日はモードでやる」ってことが判ってないと思うんですよ。おかしいなあ、なんでDマイナーがこんなにずっと続くんだろう?みたいな(笑)
『カインド・オブ・ブルー』中野 その後はどんな授業になっていくんですか?
谷川 2年生になると講師が佐藤允彦さんになるんですよ。師匠が『オール・イン・オールアウト』をリリースした頃。で、そこで一気に解禁になるんです。いきなりフリージャズからフュージョンからモードからすべてが襲いかかってくるわけですよ。
『オール・イン・オールアウト』中野 70年代後半というと、その辺がみんな出揃ってる頃ですもんね。
谷川 だからこそ、雑食系になっちゃったっていうかな。でもある一定期間我慢して、バップだけやってたってのは正解だと思うんですよね。
中野 モダンジャズの歴史をたどっていくと、バップから始まってるわけだし、すべてはそこからの発展ですからね。ところで、いちばん最初に聴いたジャズのレコードって何だったんですか?
谷川 正確じゃないかもしれないんだけど、たぶんレッド・ガーランドの『GROOVY』辺りだと思いますね。あとハンプトン・ホースの『THE TRIO』Vol.1〜3とか、ホレス・シルヴァーの「Opus de Funk」が入ってる『HORACE SILVER TRIO』とか。
『GROOVY』
『THE TRIO』
『HORACE SILVER TRIO』