四浦 いわゆる王道のジャズ・ボーカルではないのですが、ぜひ聴いてほしいなと思って。中野さんならこの歌声は好きだろうなと。
中野 よくご存知で(笑)。このベースが旦那さんのステファン・クランプですか。あのヴィジェイ・アイヤーのトリオのベーシストということですね。
四浦 そうです。で、ギタリストを二人従えたドラムレスの編成です。
中野 ギターは誰ですか?
四浦 リバティー・エルマンとジェイミー・フォックスです。リバティー・エルマンは日本では完全にアバンギャルド系の人って扱いになってますけど、こういう歌伴もやるんです。アバンギャルドなことをやってると、それしかできない人かと思われがちですが、バッチリこういう下地があっての前衛なのです。
中野 どっちもできるよっていう。振り幅が広い。
四浦 「Jen Chapin & Rosetta Trio」と書いてあると思いますがその「Rosetta Trio」が単独の作品も出しておりまして、できればセットで聴いてもらいたいんですよ。
中野 ほんとだ。ギター&ギター&ベースの作品なんですか。変わった編成だなぁ。
四浦 ステファン・クランプの2006年のリーダー作『Rosetta』という作品です。
『Rosetta』中野 先ほどの作品と比べるとたんにボーカルがいなくなったというだけでない、なんか変わったサウンドになってますね。
四浦 より自由度を増したというか、アバンギャルドな感じも含めたものになってます。ステファン・クランプの音楽性を含めてヴィジェイ・アイヤーの作品をを聴いてもらうとさらにより深く楽しめるんじゃないでしょうか。
中野 それにしても、この編成って珍しいですよね。
四浦 そうですね。いわゆるツイン・ギターというものとは発想が違うんですよね。管楽器が2本合わさっているような感じというか、さらに広い役割がある。リバティ・エルマンのバック・ボーンにはオーネット・コールマンのハーモロディックの思想があると思いますし。
中野 フリーに近いですね。
四浦 そうですね。ドラムレスということでステファン・クランプのベースのリズムの波みたいなものが重要になっていて。こういったムードは本当に90年代以降のアヴァンギャルド・ジャズの定番で、ノイジーなものとは真逆のものですよね。
中野 ...まだ、これをどう聴いていいか判らない。
四浦 「お笑い」に例えるとちょっとシニカルなボケですよね(笑)。判りやすいボケじゃない。難しいといってしまえば難しいんですけど。でも決してフリー・ミュージックではないんです。
中野 というと?
四浦 フリー・ジャズの概念の理解ということだと思います。ちょっと難しく聞こえますけど、つまり単なる思いつきで演ってるんじゃなく、譜面上にあるめちゃくちゃ細かいルールを決してレベルは下げずに解放するという。
中野 ガチガチに台詞とト書きが決められたコントをギリギリのところで、崩していく感じですね(笑)
四浦 そうだと思います。こういう人が、さっきのヴィジェイ・アイヤーのトリオのベーシストになってるというのがまた感慨深い。ステファン・クランクをお見知りおきをという感じでした。
中野 ブライアン・ブレイドのフェローシップの世界観に通じるところがありますね。
四浦 そうですね。音楽の探究という意味では同じだと思います。ただ結果として出てくるサウンドの違いはありますが。アバンギャルドなサウンドを含んだジャズであったり、フォーキー且つロックの要素を含んだジャズであったりと、今までにないサウンドを創ろうとしている。
中野 こういうのは、あんまり聴いてこなかったなぁ。
四浦 逆にそういう風に感じてくれると嬉しいですね。フリー・ジャズといわれるジャンルにも伝統継承派がいて、創世記の発想と技法をただただ踏襲しているミュージシャンもたくさんいるわけです。そんな中で彼らは現在という時代にしっかり接しながら新しいかたちのアヴァンギャルドをやろうとしてるんです。
中野 しっかり聴き込まないと...