四浦 ジョシュアの今回のアルバム(『COMPASS』)も前作同様にトリオというフォーマットに重点を置いて創ってきてるじゃないですか。前作のタイトルの『BACK EAST』には、自身の状況報告、1998年から続けてきたサンフランシスコ・ジャズ・フェスティバルの音楽監督を一旦終了させてまたニューヨークに戻ってきましたっていう意味もあるんですが、同時にソニー・ロリンズの名作『ウェイ・アウト・ウエスト』へのアンサーというかオマージュの意味も込められていますよね。トリオ・フォーマットで2枚目を出したことで前作と連作になって、こっち買ったらあっちも買ってもらおうというのもあるのでしょうが、このことで前作の持つ意味合いをさらに増そうということだと思うんですよね。同時期にリリースされたジェフ・バラード、ラリー・グレナディア、マーク・ターナーのトリオ、FLYの『スカイ・アンド・カントリー』がECMレーベルからリリースされるのも横目に見ながらなわけで、ジャズ界の若きサキソフォン・プレイヤーのリーダーとしては、自分がこのサックス・トリオの傾向の最先端を突っ走っていることも示しとかないといけないというか。
『BACK EAST』
『ウェイ・アウト・ウエスト』
『スカイ・アンド・カントリー』中野 僕もFLYは1枚目(『FLY』)がとても好きで、2枚目のECM盤はまた印象が異なってそれはそれで興味深く聴きました。彼らはどういう位置づけなんですか?
『FLY』四浦 チック・コリアのストレッチというレーベルがありますよね。そこからオリジンの各メンバーがソロ・アルバムを続々とリリースしていた頃にレーベルのコンピレーションが出て。その中にジェフ・バラード・トリオの名義で1曲紹介されていたのですが、結局ストレッチからはリリースされずに、'04年にSAVOYレーベルからFLYとして最初のアルバムをリリースしました。しかしベスト・セラーにはならなかったです。レーベルのプロモーションも批評家たちも、彼らの凄さ、素晴らしさを伝えきれなかった。マーク・ターナーは'65年生まれなんですが、はじめアート系の大学に入学してその後にボストンのバークリーに行ってるんで、例の88、89年組と同じ頃にボストンにいるんですよ。当時のボストンの活気は前回の対談でお話した通りで。その後、彼はボストンからニューヨークに進出してすぐウォーン・マーシュに接触して教えを請うようになって。黒いラバーのマウスピースを使って、レニー・トリスターノのスタイルも勉強して、もちろんジョン・コルトレーンやウェイン・ショーターのスタイルも追求しました。まるで学者みたいですよね。他の若いミュージシャン達もそんな彼に刺激を受け、次の新しい音を求めてどんどん研鑽を積んでいったんですよ。ジョシュアをはじめシーマス・ブレイクやクリス・チークなどなど。
中野 クリス・ポッターも。
四浦 そうですね。クリス・ポッターは研究家としての顔もありますが、さらにそれらをどんどんと取り込んでいく実践派という感じでしょうか。様々の演奏家の研究成果を完璧に自分流に消化しちゃっていくというか。そんな彼らがサックス・トリオというフォーマットの作品を最近、結構出してるんです。年齢的にはウォルフガング・ムースピールと共にゲイリー・バートンのバンドに参加していたので彼らより少し上になるんですが、ダニー・マッカスリンも昨年『RECOMMENDED TOOLS』というトリオ作品を出しました。彼は現在、ミンガス・ビッグ・バンドへの参加やデイブ・ダグラスとの共演で注目されてますね。あとは、ポスト・ブランフォードの最右翼であるJ.D.アレンも昨年『I AM I AM』っていう作品を発表してました。ところで現代のテナー・サックス・トリオの歴史を紐解くにあたりこれは外せないアルバムがあるんですが、これ聴いてます?ブランフォードの『BLOOMINGTON』という作品なんですが、これジャズ史上のライブ・アルバムの傑作としての意味合いもある重要作品なんですが。
『RECOMMENDED TOOLS』
『I AM I AM』
『BLOOMINGTON』中野 マルサリス兄弟の三男坊、デルフィーヨ・マルサリスがプロデュースなんですね。
四浦 そうです。ブランフォードはその後『DARK KEYS』という、ゲストにケニー・ギャレットとジョー・ロバーノを迎えたトリオ作品も出しています。
『DARK KEYS』中野 これは知らないなぁ。いつ頃のものですか?
四浦 '96年です。
中野 やっぱりそうかぁ。ちょうどその前後7、8年は仕事に追われてすっかりジャズから離れてた頃で、実は自分の中でもジャズ的には空白の時期なんです。
四浦 これはちょうど当時のケニー・ギャレットがジェフ・ワッツを迎えて演っていたサウンドを利用した感じですね。ケニー・ギャレットはアルト・サックスのプレイヤーなのですが、彼は『TRIOLOGY』や『PURSUANCE』という作品を通してソニー・ロリンズとジョン・コルトレーンというテナー・マンへのオマージュを行なっていることも興味深いのでこれらも押さえておいてほしいです。
『TRIOLOGY』
『PURSUANCE』
四浦 先ほど話題に出たブライアン・ブレイドなんですが。僕が彼の動いている姿を初めて見たのが、まだブルーノート東京が骨董通り沿いにあった時で、ケニー・ギャレットのバンドの一員として来日した時だったんです。その時のメンバーが、ブライアン・ブレイドとフェロウシップの盟友クリストファー・トーマスに大西順子さんというカルテット編成で。それ見て本当にすごいなぁと思って、何年かしてジョシュア・レッドマンのバンドのメンバーとしてしょっちゅう日本に来るようになってからは完全に追っかけになっちゃったんですけど。お話ししたケニー・ギャレットの『TRIOLOGY』のドラムスがブライアン・ブレイドなんですが、聴かれてますか?こちらはトリオ編成です。ベースは北川潔さんです。
中野 聴いてないですね。
四浦 そうですか。これは、ぜひぜひぜひ聴いてください。'93年の録音ですが、90年代ジャズのキーになる作品なので。面白いのは1曲目にちゃんと「デルフィーヨのジレンマ」という曲をやってるんでよ。この曲は新伝承派の代表であるウィルトン・マルサリスの作品の中でも特にオリジナル性が高くて自分たちの音楽を完成させたといわれる作品『BLACK CODES』の中に入ってる曲です。この『BLACK CODES』のメンバーはブランフォードはもちろんのこと、ケニー・カークランドに、ジェフ・ワッツもいて、ベースをチャーネット・モフェットまたはロン・カーターが務めといった具合になっています。ぜひもう一度聴き直してもらいたい1枚です。
『BLACK CODES』中野 はい。これは持ってます。早速、聴き直してみますね。
四浦 こういった曲を取り上げることで新伝承派の音楽を総括して、さらにそれを前進させた世界観を構築したものに仕上がっています。元々この『TRIOLOGY』という作品は、彼がアート・ブレイキーのジャズ・ッセンジャーズに在籍していた時に苦楽を共にした先輩ピアニストのドナルド・ブラウンをプロデューサーに迎えて録音したものなんです。でも結局リリースされなかった。それを例のマット・ピアソンというプロデューサーが見つけてまとめて、『TRIOLOGY』として世に出した。実はその時の録音には、マルグリュー・ミラーも含めたカルテットによるセッションもあったようですが、それは採用せずにトリオ編成の曲だけをまとめたようです。
中野 これはいいですね。かなりいい。空白の時期がもったいない(笑)。
四浦 まだまだこの頃のブライアン・ブレイドは無名だったんですが、彼が出身地であるニューオリンズでエリス・マルサリス(ブランフォード&ウィントンの父でありジャズ教育者としても有名)の元で学んでいた頃、ハリー・コニック Jr.と共演したことがあるんです。そのステージをたまたまケニー・ギャレットが見て素晴らしいドラマーがいるということで引っ張りだしてきたんです。
中野 じゃあ、ブライアン・ブレイドは元々はケニー・ギャレットが見つけてきたんだ。
四浦 そういっていいと思います。その後、程なくしてジョシュアの『MOODSWING』に参加して現在に至るというわけで。『MOODSWING』はブライアン、ブラッド・メルドー、クリスチャン・マクブライドというカルテット編成で。
『MOODSWING』中野 もう最強のメンバーですよね。
四浦 でもこのメンバーでは来日はしてなくて、そのあとピアニストがピーター・マーチンにかわった頃からジョシュアは頻繁に来日公演するようになって。
中野 『フリーダム・イン・ザ・グルーヴ』を聴いて、こんなファンクな楽曲もブライアン・ブレイドは叩いちゃうんだと驚きました。
『フリーダム・イン・ザ・グルーヴ』四浦 ですね。ブライアンは本当に凄いです。アート・ブレイキーやエルヴィン・ジョーンズみたいに叩くと思えば、クレイド・スタブルフィールドや"ジャボ"・スタークスや"ジガブー"・モデリストも完璧に消化しちゃってる。今日のライブのハッチンソンも悪くないんですけど、ブライアンは一人群を抜いていますね。
中野 それはしょうがない。だってブライアンは凄いんだもん(笑)。
四浦 面白かったのが、ファイヴ・ピース・バンド。あの時のサウンドは完全にフュージョンだったじゃないですか。でもそこに何の違和感もなくブライアン・ブレイドがいるっていう。
『ライヴ・イン・ヨーロッパ』中野 いやぁ、面白かった。正式メンバーのヴィニー・カリウタがスケジュールの都合で参加できずにブライアンが代役だったんだけど、完全にカリウタを上回ってた。ホント、あの時の演奏はすごかった。まぁヴィニー・カリウタはCDでしか聴いてないですけど。
四浦 (笑)。決してブライアンが独特のリズムを勝手に持ち込んでるわけじゃないんですよね。ブライアンの叩くパターンは基本的にヴィニーのものを踏襲したものでしたよね。
中野 でも、完全にブライアンの世界でした。あれはホントすごかった。今のところ今年一番のライブ。
四浦 たしかに見せ方がうまいですよね。ドラムを叩く姿からしてカッコいいですもんね。いちいちリズムを刻んでなくても曲全体がグルーヴしちゃうんですよね。