四浦 さて、ようやく今回お勧めの1枚目にいきましょうか。レベッカ・マーティン『The Growing Season』です。ノラ・ジョーンズの大ヒット曲「Don't Know Why」を作曲したジェシー・ハリスはワンス・ブルーというユニットをレベッカとやっていました。
『The Growing Season』中野 実はこれ買ったばかりでまだ封を切ってないです。メンツが凄いですよね。
四浦 はい。ギターがカート・ローゼンウィンケル、ドラムスがブライアン・ブレイド、ベースがラリー・グレナディア。レベッカは、ラリーの奥方です。
中野 そうなんですか!て、奥さんだと知ってそんなに驚くことはないか(笑)それにしてもカート・ローゼンウィンケルはほんといろんなところに参加してますね。
四浦 ここでは音楽監督でもあり、ピアノも弾いてますね。このアルバムは、いたって普通のシンガー・ソングライター系の音で、ジャズではないんですよ。でもジャズのコーナーに置いてある。
中野 僕も、タワレコのジャズ売り場で目にして、ミュージシャンの豪華さで思わず買った一枚です。
四浦 ノラ・ジョーンズもジャズかというとジャズじゃないですよね。シンガー・ソングライター系なんですけど、現代的なジャズの音楽観をボーカルの世界でも形成しようとした流れがあって、例えばホリー・コールなどが良い例です。ノラはその流れにあると思うんです。そしてこのレベッカも同じです。彼女のこのアルバムはメンバーが凄いだけじゃなくて、音楽そのものがたいへん魅力的なんです。ジョニ・ミッチェルという偉大なシンガー・ソングライターがジャズという音楽を飲み込んだ、その先の世界観というんでしょうか。だからこれを聴かないで、何を聴くのっていう。彼女は今、地道ではありますが、実にコンスタントに活動を続けていて、ポール・モチアンの『オン・ブロードウェイ Vol.4』で、このグループの初のボーカリストとして活躍。王道のボーカル・ジャズも十分に歌いこなしています。レベッカも、2月に丸の内コットン・クラブに来ますよ。
『オン・ブロードウェイ Vol.4』中野 コットン・クラブには、なんか尖ってる感じの人が多くやって来てる気がしますね。
四浦 今はそうですね。広さも程よくて、これからという新人の紹介の場にはもってこいの箱になっています。我々には非常にありがたい存在です。
中野 でも、店の雰囲気とはマッチしないことが多い(笑)。アーロン・パークスやブライアン・ブレイドの世界観はここじゃないなぁと思いながら見てた。
四浦 それはコットン・クラブのゴージャスな雰囲気が原因でしょうか。ベテランがやる雰囲気(笑)。
中野 ベテランというか、ベタなジャズがマッチする気がする。だから、シェリル・ベンティーンを観た時は、この人はコットン・クラブに合ってるなぁと思いました(笑)
四浦 次に紹介させていただく作品もいわゆるメインストリームではないですね。インプロヴァイズド・ミュージックという言葉の定義がジャズと同意語とすると分かると思うのですが、そういったジャンルの音楽です。この作品に参加しているビル・フリゼールって聴きます?
中野 フリゼールが参加してる、マーク・ジョンソンの『ザ・サウンド・オブ・サマー・ランニング』はよく聴いてました。
『ザ・サウンド・オブ・サマー・ランニング』四浦 ビル・フリゼールは現代ジャズ界の三大ギタリストの一人でございます。師匠にジム・ホールを据えたその直属下にあるギタリストで、他の二人がパット・メセニーとジョン・スコフィールド。フリゼールの音楽観はカントリー・ミュージックに根ざしてるようで、そこにジャズというインプロヴィゼーション・ミュージックからどう回帰していくかみたいな感じでしょうか。
中野 ジャズギターはあまり積極的に聴いてこなかったんですが、パット・メセニーはよく聴きますね。フリゼールのその流れは最近の傾向なんですか?
四浦 そうですね。ジョーイ・バロン、カーミット・ドリスコルと組んだトリオで95年ぐらいまでにそれまでの彼、独特の音楽観を完成させた。その後はどんどんカントリー志向になってますね。
中野 去年今年あたりジャズ界に限らずカントリーに回帰したアルバムが多いですよね。ノラ・ジョーンズの『リトル・ウィリーズ』の成功が関係してるんじゃないかと思ってたんですが、あのブルーススプリングスティーンまでカントリーアルバムをつくったり、ウィントンも本家本元のウィリーネルソンとアルバムを出したりしてる。
『リトル・ウィリーズ』四浦 年を取ると自分のルーツ・ミュージックへ気持ちがどんどん向かっていくのではないでしょうか。実はジャズ・ギターの歴史上の名プレイヤーには多くの白人がいます。ギターという楽器の歴史的背景の影響かもしれません。で、この紹介させてもらってるCDはそのフリゼールのインターコンチネンタルズというバンドで注目を浴びたジェニー・シェインマンという女性ヴァイオリニストの『CROSSING THE FIELD』という作品で。フリゼールが参加してるのは先ほどお話しましたが、フリゼールと縁の深いメンバーも多数参加しています。でも、やはりこの作品はメインストリームなジャズだとはいえないですね。このような作品を聴きたいと思う方は様々なジャンルの音楽とジャズとのクロッシングを楽しめる、楽しみたいと思ってらっしゃるのかなと。聴く側のアンテナの広げ方を楽しんでいるというか。
『CROSSING THE FIELD』中野 ヴァイオリンってグラッペリぐらいであまり聴いてこなかったんですが、今年の夏にブルーノートでレジーナカータのライブを観た直後はちょっとハマってた。と言っても、レジーナの過去作をまとめて聴いてたぐらいですけど。
四浦 特にこれはジャズのヴァイオリニストとしてビ・バップができてどうだとかではないです。もともとこの人は、インプロヴィゼーション色の強いフォーク・ミュージックみたいなことをやってる人たちのカルチャーから出てきた人で。それで今はよりジャズに足をつっこんでみたいな活動をしてるんです。今回僕が持ってきたのは、いろんなジャンルとジャズの密接な部分により重点が置かれた作品が多いかもしれません。でもそれが本道とまでは言いませんが重要な位置を占めるようになりつつあるというか。
中野 今のジャズの流れですね。いろんなジャンルを取り込んでいくというのは元々ジャズの本質だし。
四浦 そうなんです。だからこのアルバムはシェインマンを聴くというより、もっと大きく楽曲全体の流れを聴くのだと思います。更にその先で、ここで弾くビル・フリゼールがいつものフリゼール自身の作品上より更に自由度を持ってフォークだったり、昔のロック調なことを楽しくやってくれたりするので、そこも聴くと楽しいアルバムだと思います。メンバーもそういう音楽を奏でさせたら最高なメンバーが集まってます。
中野 ピアノはジェイソン・モランなんですね。
四浦 そうです。ジェイソン・モランって本当にコンテンポラリーじゃないですか。なのにジャズの歴史の古いところを実に良く勉強しているというか。色々な時代のピアノの奏法を全てマスターし、それを再構築し、自分の色を前面に出しながら提示してくる。彼のスライドやブギ・ウギのスタイルは実に独特でカッコいい。その要素を上手く使ってデューク・エリントン作曲の「AWFUL SAD」を演ってます。また「I HEART EYE PATCH」なんかは、時代劇のテーマみたいな曲ですよね。
中野 ですね。ウォーキンクベースのようなベースが懐かしい感じ。
四浦 でも時代劇の音楽もネタは西部劇の音楽だったりするので、どちらかというとそっちからのインスパイアなのかもしれないですが。とにかく色々な風景が見えてきそうな、実に様々な要素を上手いことまとめあげた作品に仕上がってます。フリゼールは90年代初頭、ジョン・ゾーンとのコラボレーションで前出のニッティング・ファクトリーで大活躍。その後、フリゼール本人も含め、その人脈にいたウェイン・ホーヴィッツらと97年くらいに一斉に住まいをNYからシアトルに移しており、このアルバムもその西海岸で活動している面々を中心に編成しております。