四浦
『Loverly』中野 実はこれ、もう買って持ってるんですよね。しかも、かなりの愛聴盤。
四浦 アハハハ。(実際にCDをかけながら)これ1曲目を聴いた瞬間どう思いました?
中野 力が抜けた感じがしました。メジャーに一歩踏み出したというか。
四浦 ですよね。この感じ、突き抜けてますよね。何も奇を衒ってない。
中野 実は、デビュー当時のカサンドラにはハマらなかったんですよ。でも全アルバムは買い続けてた。完全にハマったのは、『Belly of the sun』から。
四浦 分かります。最初はM-BASE派出身のボーカリストとして、スティーブ・コールマンらの作品で彼女の存在に気づきだしてはいたんですけど本人のリーダー・アルバムをじっくり聴いてはいなかったです。しかし『New Moon Daughter』というクレイグ・ストリートがプロデュースした超名盤が発表されると、あとはこの人が出す作品はとりあえず全て買っていこうという状況になってました。その後も時代をリードする作品をT・ボーン・バネットをはじめとするトレンディな敏腕プロデューサーたちと次々にリリースして来ました。正直この路線でやることは全てやり終えてしまったかのようにも見えてきた今日この頃だっただけに今回のアルバムは相当な正念場になると思っていたのですが、いとも簡単にその懸念を払拭して見せてくれました。というか上手いことすり抜けてきたといいますか。本当に気負いのない一部媚びまでをも見せたかのような見事な作品だと思います。 今、アメリカのピアノ・ジャズの歴史を変えようとしてるのがブラッド・メルドー、マシュー・シップ、ジェイソン・モランの3人なんですけど、このアルバムにはそのジェイソン・モランが参加しています。
中野 前作とはメンバーが違うんですよね。
四浦 違いますね。ギターは『Traveling Miles』以降、カサンドラに使え、ジェイソン・モランとも活動を共にするマーヴィン・スウェルで、このメンバーで作品を創るのは初めてなんです。しかしライブでは以前から活動を共にしてきたメンバー達なので漸くって感じもあるのじゃないでしょうか。だからといってあのころのレパートリーが入っているわけじゃなく、しっかりと新しいものが一から創られており、このメンバーらしいディープな世界観で本作がはじまっていくと思いきや1曲目からもろに掴みにいってる感じの(笑)、まさにキャッチーな曲が演奏されていてびっくりしましたけど。逆にこの点は昨今のアメリカでのジャズのマーケットのシリアスさに起因してるのでしょう。が、とにかく本作、本当に素晴らしいです。
中野 僕もこれは名盤だと思います。プロデュースも自分なんですよね。
四浦 そうです。『New Moon Daughter』以降、注目のプロデューサーをたてたり、コンセプト重視だったり、常にカッティングエッジなことをしなければいけないっていうところから、ふと力を抜いて。厚かましくない雰囲気の作風に仕上げてきて大成功でしたね。
中野 これはビギナーにも聴いてみたら?って勧められる1枚になってますね。
四浦 ラテンがルーツのミュージシャンじゃないのに、いとも簡単にラテンをやってのけるのがかっこ良かったりするんですよね。時間と空間を移動してる感じがするんですよ。アメリカ南部を想起させる音楽を奏でた後、同じバンドが今度は南米を想起させる演奏をしちゃうということはまるで聴く側の空間を移動させているようで。今現在の2008年という時代に古いブルースがリアリズムを持って奏でられることは聴く側の時間軸も越えさせてしまっているという。それが2000年以降の音楽のメインなんですよ。
中野 それは彼女の音楽が、ということですか?
四浦 もちろん彼女の音楽もですが、ジャズという音楽がやらなきゃいけないことというか。ヒップ・ホップということなんですけどね。
中野 どういう意味で、ヒップ・ホップなんですか?
四浦 ヒップ・ホップって、時間軸を越え、空間軸も越えるじゃないですか。サンプリングってそういうことだと思うんです。全然違う場所の、違う時代の、違うジャンルの音楽を今に持ってくるという。
中野 なるほどねぇ。そういう風に解釈して聴いてなかったから、そう聞くと面白いですね。