織戸 次はハービー・ハンコックの『処女航海』。これは今まで聴いてきたものと雰囲気が変わってくる。ジャケットから音からすべてトータルアルバムになってるの。
ーーこれまでのものと時代が違うということですか?
織戸 リリースは『プリーズ・リクエスト』と同じ1964年なんだけど、ミュージシャンとしてのタイプが違う。
中野 ハービー・ハンコックも同じくピアニストだけど。
織戸 ハービー・ハンコックの音色はマイルス・デイヴィスの流れの一環にあるんだよ。メンバーもロン・カーターとか入ってる。テナーはジョージ・コールマンだけど、本来はウェイン・ショーターでいいはずなんだよね。
中野 そうですよね。トランペットはフレディ・ハバードだから、ウェイン・ショーターが本当はしっくりきます。
織戸 要するにマイルス・グループだから。
中野 これも大名盤ですよ。それまでこういったコンセプトが強いアルバムはなかったんですよね。
織戸 そう。アルバム全体がトータルプロデュースされてて、ひとつの映画を観ているような流れがあってね。トータルアルバムというとロックの方が早かったんだけど、ジャズではこれが最も早い。マイルス・デイヴィスの『マイルス・イン・ザ・スカイ』よりも前だから。
中野 マイルスはこの後どんどんこっちの方に行くんですよね。
織戸 そうそう。これはまだハンコックもマイルス・グループに在籍中で。このアルバムはジャズメンがガンガンやるんじゃなくて、アレンジというのが中心になってるんだよね。トランペットとかテナーなんかを複雑に組み合わせることによって音の奥行きとか幅に変化があって、すごく爽やかなイメージ。この『処女航海』は青春の光と影という雰囲気があるんですよ。
中野 織戸さんはリアルタイムで聴いてるんですよね。僕は後から戻って聴いてるから、これが出た時の斬新さとか驚きというのは実感としては判らないんですよ。これ以降に出てきた、もっと進化した音を知ってから聴いてるから。
織戸 それは時系列の問題で、否応無くそうなるよね。
中野 でもさっきの『プリーズ・リクエスト』みたいなジャズを聴いてた人がこのアルバムを初めて聴いたらさぞかし新鮮だっただろうなぁとは思いますね。
織戸 新鮮だった。まったく雰囲気が違うから。こういうジャズがあったのかって驚いた。
中野 最近のジャズは結局はこの延長線上にある感じがしますね。
織戸 そうね。マイルスとハンコックやなんかの流れにあるのが、今のメインストリーム。
ーーハービー・ハンコックは現役で活躍してるんですか?
中野 うん、バリバリの現役。
織戸 この人はソウルとかフュージョンとか、ジャズという枠組みを踏み越えていろんなジャンルを全部取り入れた人の大御所になってる。クインシー・ジョーンズがいて、その次くらいにこの人だから。
中野 そのあとに、チック・コリアですか。
織戸 そうだね。ビル・エヴァンス以降の重要なピアニストを挙げるとしたら、ハービー・ハンコック、チック・コリア、そしてキース・ジャレット。
中野 その3人はまだ健在ですからね。
織戸 まあこの3人を超えるコンポーザーが若い人の中から生まれるかどうかというのがね。
中野 テクニックはかなり上手くなってますけどね。