織戸 次はスタン・ゲッツの『ゲッツ/ジルベルト』。これより前に『ジャズ・サンバ』というアルバムがあって、それはブラジルで流行ってるボサノヴァをアメリカに持ってきて、ジャズとくっつけて売ろうとした作品。それにもスタン・ゲッツは参加してて、大ヒットしてるんだよ。その後の1963年にウエストコーストジャズの天才テナーサックスであるスタン・ゲッツと、ボサノヴァの天才中の天才のジョアン・ジルベルトとアントニオ・カルロス・ジョビンが集まってこのアルバムを作った。
ーースタン・ゲッツは前回の対談にも出てきましたね。ボサノヴァとジャズを結びつけて世界的にヒットさせた人ということですが、ボサノヴァはジャズの中のジャンルになるんですか?
織戸 ジャズから派生したジャンルではあるけど、ジャズの中には含まれない。でもボサノヴァはジャズの影響をかなり受けているし、ジャズの方でもボサノヴァを取り入れた新しいジャズが生まれていったんだね。
中野 1曲目の「イパネマの娘」でジョアン・ジルベルトと一緒に歌ってるのは、奥さんのアストラット・ジルベルトですよね。
織戸 そう。アストラットはこの時は素人で、たまたまジョアン・ジルベルトについてきてノリで歌ったっていう話。ジョアン・ジルベルトはポルトガル語で歌ってるけどアストラットはたどたどしい英語で、この声で歌うからかわいらしい感じになった。偶然の産物で生まれてるんだよね。
中野 これ以降はよく歌ってますよね。
織戸 うん。これでもの凄く売れちゃって、アストラットのアルバムっていうのがいっぱい企画された。
中野 この有名な「イパネマの娘」って、今じゃ女性が歌う時は「イパネマの少年」に変えてたりする。ダイアナ・クラールの新譜(『QUIET NIGHTS』)でも「The Girl〜」を「The Boy〜」と歌ってましたね。
織戸 そのあたりの自由なところもジャズだから。
中野 僕が最近好きなグレッチェン・パーラトっていう女性ボーカリストが、この間のライブで「ドラリス」を歌ってたんですよ。まだインディーズで1枚しか出してない新人ですけど、相当巧くてお薦め。
ーーこのアルバムもまたジャズ喫茶ではリクエストしづらい1枚ですか?
織戸 いるけどね。たしかに言い出しづらいだろうね(笑)。
中野 このアルバムは今風のカフェに行くと絶対に置いてあると思いますよ(笑)。今でもこういう定番な有名盤ってお店に置いてあるんですか?
織戸 ジャズ喫茶の使命としてやっぱりベスト100的なものは置いてあるよ。初心者の人が聴きたいと言った時にかけてあげるっていうのはジャズ喫茶の使命のひとつだから。
中野 名盤の本を開くと絶対載ってるから、ビギナーとしては聴いてみたくなるんですよね。マスターからしたらもう30年同じ曲をかけ続けてる訳だけど(笑)。お客さんを見て、ジャズをあまり知らなそうだと思うと判りやすいジャズを流したりするんですか?
織戸 そうそう。話したりしてる雰囲気で、誰が聴いても楽しめるようなものをかけといた方がいいなとかね。トランペットとかテナーでハードなやつが続いたから、ちょっと優しい雰囲気のピアノをかけた方がいいかなとか。
中野 流れてるレコードとかCDのジャケットをカウンターに置いた時に、この作品はなんだろう?と、みんなが確認する時は快感じゃないですか?
織戸 無反応だったら外れたかなぁ?と思ったりね(笑)。
中野 カウンターに置かれたレコードのライナーノーツを出して読むというのも勉強なんですよ。だから僕も20年前はよくここにきてライナーノーツを借りてメモッてましたもん。
織戸 今はみんなパッと見て、ケータイでカシャッだよ。メモなんかしない(笑)。
中野 そうかぁ!写真がそのまま情報になるから!そういう点でも今はいい時代だなぁ(笑)
ーーでもそれはちょっと空気読めてない感じもしますけど(笑)。リクエストも空気が読めるようになってからした方がいいのかもしれませんね。
中野 でもこういう超有名盤はリクエストしないとかからない。
織戸 そういうものをリクエストされると嬉しいこともある。変に小難しいものばかりかけてる店だと思われても嫌なわけだし、自分からはかけないけど、誰でも知ってるような曲をリクエストしてくれるというのはジャズ喫茶の流れとしては嬉しいこともあるんだよ。
【取材・文=加治屋真美】



ジャズ喫茶「MILESTONE」店主・織戸 優
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