MILESTONE24時

中野俊成が18歳から通い続けていた
ジャズ喫茶『マイルストーン』の店主、織戸氏と共に
ビギナーに向けたジャズの名盤を紹介。
店が閉店した24時から花咲くジャズ談義を、余すことなく公開します。
MILESTONE 24H Vo.5

ビギナーの必聴名盤
その1


ビリー・ホリデイに捧げた
『レフト・アローン』

織戸 次はマル・ウォルドロン『レフト・アローン』を聴いてみようか。

中野 これは野村宏伸さんが出てた角川映画『キャバレー』でも使われてたから聴いたことある人も多いと思う。ビリー・ホリデイが好んで歌っていた曲をやってるアルバムですよね。

織戸 そうだね。「レフト・アローン」という曲は、マル・ウォルドロンが作曲して、ビリー・ホリデイが作詞をしてライブで歌ってたんだよ。でもレコーディングする機会がないまま1959年にビリー・ホリデイが亡くなっちゃったの。それがマル・ウォルドロンがピアノトリオでこのアルバムを作ってる時だったから、急遽追悼盤に作りかえようということで1曲目に「レフト・アローン」を持ってきた。

ーーじゃあこのアルバムではビリー・ホリデイは歌ってないんですね。

織戸 ビリー・ホリデイが歌っている「レフト・アローン」は録音されてないからね。マル・ウォルドロンはビリー・ホリデイの晩年に1年くらい共演したピアニストで、ライブでは毎日のように一緒にやってたんだろうけど録音する機会がなかった。このアルバムではビリー・ホリデイの歌の代わりにジャッキー・マクリーンのアルトサックスが入っていて、このジャッキー・マクリーンのむせびなくようなアルトの音色が泣けるんだよね。

中野 マル・ウォルドロンって渋いピアニストですよね。日本では人気はあるけど地味というか、暗い。

織戸 『オール・アローン』というソロアルバムも有名だけど、暗い感じだよね。でも日本で異様に人気のある人。晩年は毎年1回日本に来てお金を稼いで帰るみたいなことをやってたから(笑)。で、『レフト・アローン』っていうアルバムをいくつも作ってて。


中野 「レフト・アローン」はいろんな作品で演奏してますね。この曲を入れると売れるんでしょうね(笑)。

織戸 「レフト・アローン」の評価の高さも日本に限ってなの。こういうセンチメンタルで情緒を動かすような音と、悲しい生涯を送ったビリー・ホリデイの追悼という物語を日本人は好んだんだよね。

中野 ビリー・ホリデイは売春宿で生まれ育って、そこに置いてあったラジオから流れてたジャズを聴いて育ったっていう人で。

織戸 信じられないくらい貧しい育ちで、麻薬でボロボロになって死んじゃった。

中野 彼女の壮絶な人生が歌声に染み込んでるからじわりと心を震わされる。最初はとっつきにくかったけど、今は時々、無性に聴きたくなるジャズシンガーの一人ですね。でもこの『レフト・アローン』のジャケットは初めて見ましたけど、オリジナルなんですか?うしろにビリー・ホリデイが写ってる緑色のやつが一般的ですよね。


織戸 いろんな形で出てるけど、これがオリジナルのジャケットというような話もあったからこれを持ってきたんだよ。中野さんがここに通ってた頃もこれをかけてたんじゃない?

中野 そうでしたっけ?でも、あの頃はこれをリクエストするのがちょっと恥ずかしい感じでしたね(笑)。あまりにもベタすぎて。

織戸 あまりにも有名な曲になってて。今でもリクエストされるけど、気恥ずかしいというか、あまりにも今更な感じがあるんだよね。

中野 これは今でもリクエストあるんですか。やっぱり今からジャズを聴こうという人も、20年前と変わらずこの辺りから入るんだなぁ。まぁ有名盤を聴いといた方がより今のジャズも楽しめるですしね。有名なフレーズをアドリブの中に遊び心で引用したりするから。

織戸 それに日本人だったら誰でも知ってる名盤を聴いてると、ジャズ好きな人と話せるわけだよ。やっぱり自分だけが知ってるものじゃなくて、誰でも知ってるものじゃないと話ができないもんね。

中野 ヘレン・メリルもそうですけど、『レフト・アローン』を一度も聴いたことないっていう人とはジャズの話をする気がなくなる(笑)。

ーーこの対談に出てくる作品はそういうものが多いですよね。毎回そういう話になるような(笑)。

中野 それはこの対談がビギナー向けで、押さえといた方がいいレコードばっかりを紹介してるから。

織戸 でも何百枚もいってるわけじゃないよね。まだ、たかだか10枚〜20枚。

ーー押さえておいた方がいいアルバムは何枚くらいあるんですか?

織戸 いわゆる名盤100枚とかね。

中野 100枚はありますね。

織戸 でもジャズファンになると1000枚超える人がザラだから。中野さんも1000枚は超えてるでしょ?

中野 僕は20年聴いてきて、CD3000枚とレコード1000枚くらい。織戸さんは1万枚超えてるから。

織戸 でも俺たちがジャズを聴き始めた40年前とか、ジャズのレコードが100枚も持てるようになるなんて想像もつかなかったよ。そんなに買えるはずがないと思ってたもん。

中野 僕も昔は買えなかったからこの店に来てた。今みたいにYoutubeで気になるミュージシャンをすぐにチェックできるような時代じゃなかったですからね。

織戸 俺らの頃はジャズ喫茶に行ったり自分で本で調べたりしないと、情報が集められなかったけど、今は10年聴いてる人も1ヶ月しか聴いてない人もネットで簡単に同じ情報が見れちゃうもんね。

中野 この対談自体も考えてみたら、当時はマスターからジャズの話を聞きたかったらこの店に足を運ばなきゃいけなかったのに、今は居ながらにしてネットで読めちゃう(笑)。

ーーでもネットの中で並列になってる情報の中から何を選んでいいのか判らないという時代でもありますよ。

中野 あぁ。逆に情報が氾濫し過ぎて聴くべきものが判んなくなってるのかぁ。

織戸 情報過多で選べないっていうのもあるかもしれない。そうすると今度は情報を選ぶ技術っていう能力が試される。



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Vol.2 ジャズの歴史を彩る天才たち
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Vol.6 ビギナーの必聴名盤その2
Vol.7 ジャズ初心者から次のステージへ 1
Vol.8 ジャズ初心者から次のステージへ 2