織戸 次はアート・ペッパーの『アート・ペッパー・ミーツ・ザ・リズム・セクション』。彼も美男子なんだよ。
中野 美男子&クスリ漬け(笑)
織戸 クスリ漬けの人多いんですよ、ジャズメンって。
----それは白人ジャズメンの特徴なんですか?
中野 いや、白人に限らず、当時のジャズ界がクスリ漬けの人が多かった。今も現役のジャズ界の長老、ソニー・ロリンズだってそんな時期があった。
織戸 マイルス・デイヴィスだってそうだし、全員クスリをやってたんだよ。今はウィントン・マルサリスみたいに最初からクスリに縁がない人もいるけど、昔はジャズメンと麻薬ってセットになってたからね。本当にクリーンな人なんて珍しかったかもしれない。
中野 クリフォード・ブラウンってどうだったんですか?
織戸 クリフォード・ブラウンはやってないと思うね。ソニー・ロリンズもマイルスも、クリフォード・ブラウンの影響でクスリをやめたっていわれてるしね。クリフォード・ブラウンは牧師さんみたいな雰囲気の人。この人(アート・ペッパー)もジェームス・ディーン的な美男子で晩年はクスリ漬け。それこそチェット・ベイカーと同じく、晩年はボロボロ。刺青はいれちゃうわ、麻薬治療院にずっと何年も入るわっていう人ですね。
中野 このアルバムのメンバーは、そのまんまマイルスのリズム・セクションですよね。
織戸 そう。それで選んだの。マイルスがちょっと休んだ時に、彼のバンドのピアノのレッド・ガーランドと、ベースのポール・チェンバース、ドラムスのフィリー・ジョー・ジョーンズが西海岸に来てね。この3人のメンバーは、マイルスのバンドのリズム隊として超有名でみんな尊敬していたから、西海岸のコンテンポラリーというレーベルが、マイルスのリズム隊に西海岸のスターであるアート・ペッパーを組み合わせたらどうなるかと思ってやってみたというアルバムで。そしたらアート・ペッパーは3人に負けないくらい素晴らしい演奏をした。
中野 だからタイトルが『アート・ペッパー・ミーツ・ザ・リズム・セクション』なんですよね。
織戸 要するにリズム・セクションっていったらこの3人だから。アート・ペッパーは、白人だけどアドリブに命をかけるという人で。アドリブ一本でとにかく人を納得させちゃうっていう、稀代のアドリブ・プレイヤー。この人もチェット・ベイカーと同じくウエストコースト・ジャズの人だね。
----黒人と白人が一緒に演奏しているということは、これは白っぽくない音ということですか?
織戸 バックのリズム隊は黒人なんだけど、音自体は黒っぽさを感じさせないクールな音色だね。そのミスマッチを狙ったわけ。リズム隊は黒っぽいものだけど、そのなかにクールなアルトの音色を絡ませるというミスマッチ的な、要するに黒い土台に白いものがのるという。
中野 なんか音がサラリとしてる。
織戸 とにかくリズム隊の3人は黒人の中でも突出したプレイヤーだから、その突出したリズム隊に完全にのってアドリブをとれるアート・ペッパーは、稀代のリズム感覚のある人なんだね。
――このアルバムで一躍有名になったんですか?
織戸 これの前にも『モダン・アート』とかいろんなアルバムがあるけどね。でも今となってみると、これがアート・ペッパーの一番の代表作。だからアート・ペッパーで3枚選ぶとなれば、必ずこれは選ぶ。アート・ペッパーって日本でもの凄く人気があったの。
――それは美青年だからですか?
中野 アドリブフレーズがキレイだし、聴きやすいっていうのもありますよね。
織戸 カッコいいし、日本人好みのセンチメンタルな叙情みたいなのがあってね。この人ずっと麻薬で治療所に入れられてジャズ活動ができなくなって、引退同然になっちゃうんだけど、そこから再起して出てきたんだよ。ブランクが10年以上あったのに来日した時、日本人は大歓迎してね。この人の再起後は、日本ファンの力が大きかったんじゃないかな。その時にはスタイルはちょっと変わってたけどね。軽いノリのやつとか。
中野 アート・ペッパーはかなりアルバム持ってます。18歳の時、白いジャケットの...『among friends』を、ここ(喫茶マイルストーン)で聴いて、すぐに気に入って帰りになけなしの財布をはたいて買った記憶があります。
織戸 このアート・ペッパーやチェット・ベイカーの、若い頃の端正な美貌が晩年になってクスリでぐちゃぐちゃになるっていうのは、諸行無常というか、人生ってこうなるもんなんだなって思うね。それでもジャズをやってるから、ジャズってそういうもんなんだってね。ジャケットの写真を見るだけでも人生が判るという。