織戸 次はクリフォード・ブラウンの『スタディ・イン・ブラウン』。これはオリジナル盤のレコードで、もの凄く音が良いんだよ。
中野 (音を聴いて)ぜんぜん違う!もうそこにいて演奏してる、みたいな。
織戸 最初のシンバルの音がいい。お客さんでいわゆるオーディオマニアの人がいるんだけど、そういう人たちを撃退させる用に(笑)。驚かせるためにかけると、みんな恐れいって帰るっていう(笑)。
中野 このドラムは『サキソフォン・コロッサス』にも参加してたマックス・ローチですね。
織戸 そう。この作品はクリフォード・ブラウンとマックス・ローチのふたりの双頭バンドってことになってるんだよね。クリフォード・ブラウンは天才トランペッターで、早くに自動車事故で亡くなった悲劇的な人。
――おいくつくらいで事故に遭ったんですか?
中野 25歳ぐらいですよね。
織戸 本当にこの人が自動車事故で亡くなったのはショックでしたよ。早く死んじゃう天才ジャズメンっていっぱいいるけど、その中でも代表的な人。それこそ20代だからね。
中野 ソニー・ロリンズと同時代にやってた人ですからね。片や今でも現役なのに。
織戸 この人が長生きしてたら、ジャズの歴史が変わってたかもしれないっていうくらいの人だったの。メロディを歌わせる能力はもうズバ抜けている。さっき聴いたソニー・ロリンズもこの人には敵わないって思って影響を受けたくらいで、人格的にも素晴らしくて、温かい人で。マイルス・デイビスもいつも彼のことを意識していた。マイルスは音楽性とかいろんなことを総合して偉大な人だけど、トランペットをいかに吹くかっていうことに関しては、クリフォードがズバ抜けてるんだよね。
中野 歌心がある。
織戸 ジャズっていうのは、テーマがあってアドリブがあるんだけど、この人のはアドリブとは思えない。
中野 アドリブの部分も、元から作曲してあったみたいにとてもキレイな完成されたメロディになってる。
――アドリブというのは1回1回違うものなんですか?それともお気に入りのフレーズみたいなものがある?
織戸 たぶん、演奏シーンは1回1回違うだろうけど、その人のパターンみたいなのはあるだろうね。やっぱり自分がコレって決めたフレーズは必ず出てくるんだと思う。
中野 だからこの人がやったフレーズとかをその後の人たちが引用してたり、参考にして自分のアドリブを組み立てたりしてますもんね。
織戸 事故で死ななければクリフォードだって70代後半かそのぐらいだから、現役でやってる可能性もあるよね。
中野 ありますね。でもマイルスみたいに新しいジャズをどんどん創造していったかっていうとどうですかね。
織戸 そこのとこだね。この人は新しいスタイルを創っていくってなると辛いかもしれないね。あまりにも歌心がありすぎるから。
中野 音楽家と演奏家がいるってことですよね。彼は天才演奏家。ソニー・ロリンズもそういう意味では新しいジャズを創ってきたかっていうと、そういうタイプじゃない。
織戸 『スタディ・イン・ブラウン』には「チェロキー」や「A列車で行こう」とかの有名な曲が入ってる。「A列車で行こう」はデューク・エリントンの曲だから必ず聴いたことはあるよ。
中野 美空ひばりも「A列車で行こう」を歌ってますよね。スキャットで歌う部分があって、それが素晴らしい。
織戸 美空ひばりもすごい天才だね。
――美空ひばりはジャズに造詣が深い人だったんですか?
中野 美空ひばりの歌にはf分の1の揺らぎがあるっていわれていて、それを持ってる歌手ってそんなにいない。歌声自体がスイングしてるってことですよね。
織戸 そうそう。だから結局、美空ひばりはそんなにジャズを一生懸命聴いた方じゃないと思うんだけど、パッと聴かされて、ジャズのエッセンスを歌として再現できちゃう。普通の人が歌ったら微妙なゆらぎは再現できない。それができるっていうことは、あの人は非常に耳が良くて天才なんでしょうね。
中野 『スタディ・イン・ブラウン』もジャズを知りたいなら全員一度は聴かなきゃいけない1枚。「ジャズ好き」だって言ってる人が聴いたことがないって言ったら、程度が判る(笑)。
織戸 そうだね。ジャズ・ジャイアンツを10人選んだとしたら、ソニー・ロリンズやクリフォードはその10人に入る人だから。ジャズを聴き始めると、必ず通ることになるアルバムだね。