織戸 今回もジャズの有名どころを紹介するんだけども、次回との前後編にして、黒人グループと白人グループというカテゴリーで各3枚ずつ紹介していこうかと。今回は黒人のビッグネームを3枚、そして次(第4回)で白人のインプロバイザー3枚を紹介していこうと思います。
中野 なるほど。黒人と白人というカテゴリーでの名盤紹介は面白いですね。
----そういう分け方は一般的なんですか?
中野 いや、いわゆるジャズの名盤を紹介するガイド本では、黒人グループと白人グループという風に人種別に分けることはない(笑)
織戸 そういう風には分けないけど、ジャズは黒人の音楽というのが前提で、その中でウエストコーストジャズは白人中心のジャズっていうのはあるよね。
中野 そうですね。HPならではの括りで面白いですよ。
織戸 まずはジャズファンだったら誰でも知ってなくちゃいけないっていうソニー・ロリンズの『サキソフォン・コロッサス』から。
中野 僕は高校生の時に、これを聴いてジャズにどっぷりのめり込んだんですよ。
----何をキッカケにこのレコードに出会ったんですか?
中野 ラジオでフュージョンが流れていて、それを僕は勝手にジャズだと思ったんです。それでジャズっていいなぁと思ってまずはジャズの名盤の本を買ってきたら、筆頭に『サキソフォン・コロッサス』が紹介されていて。聴いてみたらFMで流れてたものとはまったく違ったものであれはジャズじゃなかったんだってその時判ったんだけど(笑)で、結果、フュージョンよりもそっちにハマってしまった。
織戸 ジャズ名盤10枚という時には、必ず紹介される1枚だからね。このアルバムには、数あるジャズの演奏の中でも名曲といわれる「モリタート」と「セント・トーマス」という2曲が入っていて、それだけでもう凄い。しかも2曲とも聴きやすくて初心者でも楽しめちゃう。
中野 これを知らないっていうヤツはもぐりですよね。「ジャズが好き」っていう人がこれを知らないって言ったらもう口聞かない(笑)。その時点で大して話は広がらないって判るから。
織戸 このアルバムをレコードで聴く時に、A面の最初に「セント・トーマス」が入ってて、B面の最初が「モリタート」で。両方ともメロディが良くて、どちらから聴くかは人それぞれなわけ。
中野 その日の気分によっても違いますよね。
織戸 そうだね。俺は「モリタート」を選んでしまうんだけど、この曲の原タイトルは「マック・ザ・ナイフ」といって、ドイツのベルトルト・ブレヒトの戯曲「三文オペラ」の挿入歌。ジャズのスタンダードナンバーとしても、ものすごく有名な曲なのね。
中野 同じ曲で「マック・ザ・ナイフ」と「モリタート」の二つのタイトルがあるのは何故でしょうね。
織戸 理由はよく分からないけど、「モリタート」というタイトルを使いだしたのはロリンズが最初だよね。
中野 サッチモ(ルイ・アームストロング)やエラ・フィッツジェラルドの歌唱でも有名ですね。
織戸 いろんな人が歌ってるね。
織戸 ジャズを聴いてる人にはいろんな人がいるけど、『サキソフォン・コロッサス』を嫌いだっていう人はいないでしょ?
中野 いないでしょうね。
織戸 マイルス・デイビスやジョン・コルトレーンが嫌いだっていう人はいるかもしれないけど、『サキソフォン・コロッサス』を嫌いだっていう人はいないと思うなあ。
中野 完璧ですからね。
----マイルス・デイビスやジョン・コルトレーンもジャズの神様みたいな完璧な人なんですよね?
織戸 この人も神様みたいな人。ジャズらしさの根源みたいなものなんだよね。ジャズって要はアドリブなんだけど、この人はアドリブをいちばん親しみやすく、一般の人でも聴きやすいようにやった人で。
中野 アドリブがとてもメロディアスでキャッチーなんですよね。
織戸 そう、スタンダードの旋律じゃなくてアドリブになったときに、このソニー・ロリンズって人の歌心は天才的なんだよね。
中野 フリージャズが流行った時期に、ロリンズもフリージャズにトライしたことがあるんですよね。でも、どこか聴きやすい(笑)。曲のどの辺りを吹いているか分かってしまう。
織戸 ソニー・ロリンズっていう人間の包容力の大きさが音楽に幅をもたせてるっていうのもある。聴いているうちにすごく温かい感じがすると思うよ。
----才能だけじゃなくて、人柄も好かれている人だということですか?
織戸 そうだね。
中野 とても真摯にジャズに向き合ってた人なんだと思う。そのせいで2回も引退しちゃうんですよね。
織戸 ジャズってどんどん変わっていくものだから、その中でブームみたいなのがあって。自分のスタイルに自信を持てばいいんだけど、この人誠実だから、そのたびに新しい流れに悩んじゃって。傲慢な人じゃないからね。今では、モダン・ジャズの最初の頃からいて、今でも現役でやれている数少ない1人になった。ほかはみんな亡くなっちゃったけど。
中野 今年('08年)来日した時、国際フォーラムでステージを観たんですけど、MCも何もなくて1時間半ずっと吹きっぱなしでした。もう70歳超えてるのに、凄いですよね。
織戸 とにかくこの人、ものすごいエネルギッシュでね。本当に吹きまくっちゃうんだよ。
中野 呼吸するように吹いてるもんなあ。
織戸 そうそう。テナーサックスを抱えたら口にくわえたまま、息継ぎしないでも吹けちゃうっていう。
中野 そうですよね。(曲を聴きながら)この曲のアドリブフレーズ、全部頭に入ってますよ、それくらい繰り返し聴いてる。
織戸 『サキソフォン・コロッサス』は、中野君が聴きはじめた30年近く前から現在に渡って"モダン・ジャズのレコード10枚"を選ぶ時に必ず入る。前回この連載でやった『カインド・オブ・ブルー』とこれは絶対間違いない。
中野 今でもずっと売れ続けてるみたいですね。雑誌なんかでジャズの名盤が特集されると、いつもこの『サキソフォン・コロッサス』と『カインド・オブ・ブルー』が入ってますから。
織戸 何度聴いても飽きないからね。やっぱりこのアルバムは、これがあるだけでジャズ全体が聴きたくなる保証書みたいなもので。『カインド・オブ・ブルー』になると、頭で聴くところが少しはあるんだけど、これはもう、これがあることでジャズを聴き続けられるみたいな安心感があるんだよね。一般の人でも最初に入りやすくて、また何十年たった後に聴いても、完璧という。
中野 戻ってくる場所みたいな。これは、一家に一枚の名盤(笑)。