中野 それにしても僕はこの曲を、高校3年生の時によく聴いてたなぁ。
織戸 ジャズには主流になるグループがあって、マイルス・デイビスのグループと、ジョン・コルトレーンのグループっていうのは、そのメンバーであることが一流に証とされてる。コルトレーンもマイルスのグループにいて、そのグループから離れて自分のグループを作って、そこに入ったメンバーも超一流で。それがこのアルバムのピアニストのマッコイ・タイナー、ドラムはエルヴィン・ジョーンズ。ベースは、本当はジミー・ギャリソンなんだけど、まだ入ってなくてこの時はスティーブ・デヴィスという人。
中野 コルトレーンもこの頃は聴きやすいですけど、65年以降、フリージャズに突入してどんどん難解になっていく。
織戸 コルトレーンという人は、黒人の中でフリージャズを始めた人なの。マイルスはモードジャズというもので、モードも基本的にはフリージャズとそんなに違いはないの。でもマイルスという人は自分の美学としてフリー、要するに一見自由にやってるようにはしたくないわけ。着地点が見えるような音楽にしておきたかった。だからマイルスはフリージャズ以上にフリーなことをやってるんだけど、フリーには聴こえないっていうスタイル。でもコルトレーンは完全にフリーになっちゃうから。
中野 すごく精神世界的な音楽になってますね。
織戸 そう。ある時期ものすごく神の世界になってる。
中野 「私は聖者になりたい」って言ってたくらいですから。
織戸 だからある時期の日本のジャズファンにとって、コルトレーンはいちばん偉い人という感じで。人の気持ちが揺れ動いてる時代の中で、コルトレーンは何か信じるものを持ってやってる、だからコルトレーンを絶対信じるっていう感じがあった。
中野 宗教みたいな感じですね。
織戸 コルトレーンには宗教を感じさせるまでの真面目さがあるわけ。それは凄いことなの。
中野 朝起きてから、ずっと練習し続けてたって言われてますね。
織戸 この人は本当はテナーサックスなんだけど、このアルバムではソプラノサックスも使ってる。それまではあんまりジャズの中でソプラノサックスを使う人は多くなかったの。
中野 あぁ、そうですね。これが初めてですか?
織戸 初めて。だからこの頃のソプラノサックスは、プロに言わせるとたどたどしい。要するに練習中みたいな。
中野 コルトレーンでビギナーがいちばん入りやすいのは『バラッド』という作品ですよね。それはみんな一度は耳にしたことあると思うんだけど。テレビなんかでもムーディな場面で定番的に使われてるし。
織戸 そうだね。でも『マイ・フェバリット・シングス』もメロディ的に分かりやすくて、ソプラノサックスも音的にそんなに抵抗感ないだろうから、そういう意味では分かりやすい。『カインド・オブ・ブルー』と並ぶジャズの名作と言っていいんじゃないかな。
中野 第2回はこのアルバムから始まると(笑)。
織戸 じゃあ次はウィントン・ケリーの『ケリー・アット・ミッドナイト』を聴いてみようか。この人は『カインド・オブ・ブルー』でピアノを弾いてる人ね。マイルスのグループに入れた超一流のピアニストは、最初にレッド・ガーランドがいて、そのあとウィントン・ケリーとビル・エヴァンスが重なっていて、そのあとにハービー・ハンコックになってっていう。それだけでもジャズの歴史がひとつできちゃう。
中野 マイルスのグループに参加出来るということは、その時点で天才のお眼鏡に適った超一流だということですよね。僕も大好きですね、このアルバム。
織戸 このB面に入ってる『オン・ステージ』というのがもの凄くかっこいい曲で、これはベースがポール・チェンバースで、ドラムがフィリー・ジョ−・ジョーンズ。この3人は完全にマイルスのリズム隊なわけね。このフィリー・ジョ−・ジョーンズというのが天才的なドラマーで、この人にかかるとどんなものでもスウィングさせちゃう、興奮させちゃうというかね。この人のドラムがいちばん興奮する、いちばん好きだという人は多い。
中野 鼓舞させる感じのドラム。聴いてると理屈抜きで自然に体がのってくる。
織戸 ジャズって、俺たちだって最初はそうだったけど、訳分かんないなぁと思って聴いてても、ある瞬間いい!って思う日がくるんだよね。するとそれまでボーッとしてたものがいいじゃんって、面白くなる。その積み重ねなんだよ。だから物事って簡単に手に入るものはつまらない。自分の楽しみや趣味として長続きするものは、ある程度時間をかけて勉強すると身に付くんじゃないかってことね。教訓話だけど(笑)。
中野 ジャズ自体が、僕は飽きずに聴いてる音楽で。15、6歳くらいからハマったわけだから、約28年。仕事が大変になって余裕がなくて聴かなくなった時期はあったけど、40歳過ぎてオーディオを買い替えて、最近また夢中になってる(笑)