――では本日2枚目を紹介してください。
織戸 次はビル・エヴァンス・トリオの『ポートレイト・イン・ジャズ』を。このアルバムで、シャンソンの『枯葉』をジャズに取り上げてるんだよね。
中野 『枯葉』をジャズのスタンダードとして取り上げてるミュージシャンは多いですよね。最初に取り上げたのは誰なんですか?
織戸 マイルス・デイヴィスなんじゃないかな。
中野 キャノンボール(アダレイ)とやった『サムシング・エルス』ですか?
織戸 そう。有名曲をジャズに取り上げる天才がビル・エヴァンスとマイルス・デイヴィス。この2人がジャズじゃない曲を持ってきて、ジャズとして定着させた。
中野 『ポートレイト・イン・ジャズ』もジャズの大名盤ですよね。
織戸 マイルス・デイヴィスとビル・エヴァンスはジャズの中の大天才だよね。その2人が一緒にやってたっていうのも、とてつもないことで。一緒にやってたのは1年くらいなんだけど、その期間にスパークして大傑作を作ってしまったという。
中野 越えないんだよなぁ、なかなか。
織戸 ビル・エヴァンス・トリオというのもジャズの中で重要で、ピアノ・トリオというスタイルを確立したんだよね。スコット・ラファロ(ベース)とポール・モチアン(ドラム)と3人で。エヴァンスとかは最初から好きだったの?
中野 僕は、ピアノはオスカー・ピーターソンからなんですよね。
織戸 俺なんかもジャズを聴き始めたのは60年代の終わりだから、ビル・エヴァンスはもう古い人だという意識で。
――『ポートレイト・イン・ジャズ』は何年頃の作品なんですか?
中野 これは1959年ですね。
織戸 ジャズというのは1910~20年代にディキシーランド・ジャズという形で始まって、それが洗練されてスウィング・ジャズになって。その頃は、ダンスホールで演奏するダンス音楽だったんだよね。その中で、やっぱりダンス音楽じゃ飽き足らないという演奏者たちが出てきて。その人たちが40年代に始めたのはビバップ。ビバップをやった人はアーティスト志向があったんでしょうね。
中野 チャーリー・パーカーじゃ踊れないって怒ってたっていう話もありますよね。演奏者からすれば、踊らなくてもいいっていう(笑)。
織戸 チャーリー・パーカーも天才だから。パーカーのやったバップはアドリブ一発の勢いだよね。今でもパーカーは苦手だっていう人もいるんだけど、それを言っちゃいけないのよ。なぜかというと、モダン・ジャズを確立したのはパーカーだから、認めないと言ってしまうと、ジャズの歴史を否定することになってしまう。
中野 僕はなんとなくマイルス・デイヴィスやビル・エヴァンスからジャズに入って、なんとなくジャズがわかり出した頃に、チャーリー・パーカーやバド・パウエルに戻って聴いた方がいいんじゃないかと思っていて。歴史の最初から聴こうとするとこのへんでつまずいちゃう気がするけど、ある程度、知ったあとだとその凄さが分かると思うんですよね。
織戸 それはあるかもしれないね。
中野 僕も最初はバド・パウエルの『ウン・ポコ・ローコ』なんかメロディもないし難しいなぁと思ったけど、ジャズを10年以上聴いてから聴いたら、凄い作品なんだとようやく分かったんですよね。
織戸 ポール・チェンバースの『ベース・オン・トップ』。
中野 これまた大名盤。
織戸 ポール・チェンバースは『カインド・オブ・ブルー』でベースを弾いてる人。ベースというのは、ジャズの音楽の中のリズムをキープするいちばん重要な楽器だよね。このアルバムのB面の『ディア・オールド・ストックホルム』が有名な曲で。誰が聴いても愛らしい曲で、ジャズの入門者だったらいちばん先に好きになるんじゃないかな。これは北欧の民謡みたいな曲で、スタン・ゲッツというウエストコースト・ジャズのテナー・サックスの人が『ザ・サウンド』というアルバムで最初に取り上げて大ヒットして。そのあとマイルスなんか有名な人もみんな取り上げてる。
中野 初心者の人に「ベースのアルバムってどういうことなんだ?」って訊かれるけど、ベース奏者がリーダーのアルバムっていうことなんですよね。ベースだけのアルバムではなくて(笑)ちゃんとピアノもドラムスも入ってる。ジャズでは、リーダーの人からソロが始まるっていう決まりはないんですか?
織戸 決まりはないけど、ベースってリズムをキープする地味な楽器ゆえに、自分がリーダーになったからには目立ちたいっていうのはあるよね。普段は目立たないようにリズムをキープしてる人が、自分がリーダー作の時にはいちばんいいとろころで、ボリュームも大きくして、ベースが目立つようなソロをやってる。
中野 またこれはソロが長いですよね。でもジャズは演奏を聴くっていうことが分かってくると、このベースのソロをずっと聴いていられる。
織戸 今回はマイルス・デイヴィスの『カインド・オブ・ブルー』を中心に、このアルバムに参加しているメンバーのアルバムを取り上げて。とりあえずこの3枚はモダン・ジャズの土台になってる作品だと思いますよ。
中野 第1回目としては、ジャズを知らない人が入りやすい方向になりましたね。
【取材・文=加治屋真美】
END
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