――この連載では、初心者にもジャズの魅力が伝わる名盤を紹介していただけるということで。
中野 僕がジャズを聴き始めて1~2年くらいの18歳の時に「マイルストーン」に来て、マスターにいろいろ聴かせてもらってさらにハマッていったあの頃の感じを、このHPを見にきた人が追体験するような感じがいいなぁと。
織戸 超名盤で誰でも分かるっていうところと、うちが「マイルストーン」(マイルス・デイヴィスのアルバム『マイルストーンズ』から命名)なんで、今回はマイルス・デイヴィスの『カインド・オブ・ブルー』を中心に話してみようか。『カインド・オブ・ブルー』っていうのはジャズの中心になってるアルバムで、最初に入門としても聴いて、30年後にもここに戻れるという名盤。
中野 モード・ジャズ発祥の作品ですよね。
織戸 ジャズの歴史からいうと、音楽のスタイルとしてモダン・ジャズのはじめにバップがあって、ビバップになって。
中野 ハード・バップになって。
織戸 そう。マイルスもバップから始まったわけね。チャーリー・パーカーがモダン・ジャズを始めた人で。
中野 ディジー・ガレスピーとか。
織戸 そう、マイルスはその人たちに若者として教えを乞うてジャズ界の中で実力を認められて。そして偉大なチャーリー・パーカーの先が見えたのはジャズ界ではマイルスただひとりだったわけ。マイルスが、ここままアドリブ一発だけじゃ行き詰まると考えて、クラシックの奏法や譜面のやり方を考えて完成させたのがモード・ジャスの代表作『カインド・オブ・ブルー』なんだよね。普通は試行錯誤あって、いろんな失敗作があって完成作になるんだけど、マイルスは天才だから一発で完璧なものを作っちゃった。
中野 そしてマイルスのグループにいた弟子たちが、その後のジャズ界を作っていったんですよね。
織戸 だからマイルスを聴けばジャズ界が全部分かるというのも嘘じゃない。『カインド・オブ・ブルー』に参加してるメンバーは、マイルス・デイヴィス(トランペット)、ジョン・コルトレーン(テナー・サックス)、ビル・エヴァンス(ピアノ)、キャノンボール・アダレイ(アルト・サックス)、ポール・チェンバース(ベース)、ジミー・コブ(ドラム)。ちょっとドラムが地味なんだけど。
中野 こうして見ると、蒼々たるメンバーですよね。この人たちが、ジャズの 歴史を引っ張ってった。
織戸 そう。そしてこの中でもエヴァンスとコルトレーンを追っていくとまた広がっていくから。
中野 そうですね。ジャズの聴き方として、自分が気に入ったアルバムに参加してるメンバーを追っていくというのはひとつの方法ですよね。僕は『カインド・オブ・ブルー』を最初に聴いた時に、モード奏法っていうものがいまいち理解できなかったですね。
織戸 たいていの人は理解できないよ。
――モード奏法というのはどういうスタイルなんですか?
織戸 アドリブのやり方なんですね。
中野 コードに従って演奏するのが普通なんだけど、そのコードにとらわれずに、モードでアドリブを奏でたっていうことは分かるんですけど、それがどういうことになってるのかは、僕は判るようでいまいちよく分かってないんですよ。
織戸 それは名人芸なんだよ。アドリブってコードの中で始めて、いろんな奏法をやって元に戻らなきゃいけないわけ。好きにアドリブをやって、いっちゃったまんまだったらフリー・ジャズにもならないデタラメになるから。音楽というのは、始めた幅に戻ってこないと形にならない。だからそのアドリブが、元の幅に戻ってくるシステムがモードなんだよね。それがまたややこしくて、当時でもマイルスがいくら説明しても分からなかったミュージシャンもいるわけ。マイルスは、モード奏法を分かってるのはビル・エヴァンスだけだって言ってたくらいで。
――そのモード奏法は、その後いろんな人が演奏するスタイルになったんですか?
中野 そんなにいないですよね。マイルス一派だけですよね。
織戸 最初はね。マイルスとエヴァンスが発明して、そのあと、このグループにいたコルトレーンも含めて、みんなが真似するようになった。その後は、今でも普通に若い人のメインストリームのジャズはモード奏法だよ。
中野 モードでやってる人の方が多いんですか?
織戸 そう、コード進行のジャズにモードを入れて。基本的にハードバップ的にソロを4人で演奏して回したりするのはバップ的で、その中でちょっとモダンな感じ、ウェイン・ショーターとかの雰囲気だったら、それはみんなモードだね。それは昔から変わってない。だから『カインド・オブ・ブルー』は最初にしていきなり最高傑作なんだよ。
中野 これがマイルスの中でいちばん好きだっていう人も多いですよね。
織戸 これがいちばん好きだって言えば間違いはない(笑)。
中野 マイルス・デイヴィスの話題になった時に「『カインド・オブ・ブルー』はいいですね」って言っておけば「お、分かってるね」と言われる(笑)。
織戸 ジャケットもかっこいいしね。普通に聴いても訳の分かんないアルバムじゃない。トランペットがすごくきれいで。
中野 アドリブがなめらかで美しいなぁっていう印象ですね。
――そもそもジャズってどういう聴き方をしたらいいんでしょうか?
中野 アドリブとか、演奏自体を楽しむということですよね。ソロパートでアドリブを回してく。トランペットがあって、サックスがあって、ピアノがあって、ドラムスあって、ベースがあって、それぞれアドリブで演奏して全員でまわったところでまたテーマに戻って終わるっていう。
織戸 それがなかなか分からないんだよね。最初はみんな音楽を聴く時、メロディを聴くわけだよ。でも基本的にメロディってあんまりなくて、なかなか出てこない。だから僕だって最初に聴いたのは(アート・ブレイキーの)『モーニン』とか分かりやすいテーマがある曲の、そのテーマだけを聴いてた。ベースソロやドラムソロがあったら早く終わんないかな、くらいで(笑)。
中野 早くテーマに戻らないかなぁと(笑)。
――そのうちにアドリブが聴きどころだと分かるようになるんですね。
織戸 ジャズというのは、聞こえてくるものの中にものすごい歴史と技術があるんだということを信じてもらって、だんだんキッカケをつかんでもらうといいんじゃないかな。
中野 とっかかりはなんでもいいんですよね。ただフリー・ジャズから入っちゃうと難しい!となるかもしれないけど。僕のジャズの入り口はソニー・ロリンズの『サキソフォン・コロッサス』なんですよ。
織戸 あれはもう『モリタート』とか『セント・トーマス』とか有名な曲があるからね。
中野 もう大有名なアルバムで。今年国際フォーラムでのコンサートに行ってきたんですよ。ソニー・ロリンズは79歳とかで。前から2列目で、目の前で吹いてる姿にもの凄く感激しましたね。
織戸 ソニー・ロリンズもジャズ界の巨人中の巨人で。ジャズの巨人で生き残ってるのはロリンズだけかもしれないね。
中野 オスカー・ピーターソンも今年亡くなったし。
織戸 だからあと10年か20年かすると、俺らはジャズの第一世代を生で聴いたことのある最後の世代になるわけだよね。歴史的な証人になるわけ。
中野 そう考えると、僕も歳とりましたね(笑)。