11年にも及ぶ沈黙から昨年『Musical Moments/楽興の時』で復帰した大西順子だったが、これが完全復帰と呼ぶに相応しい作品だ。レコード会社もEMIからユニバーサルに移籍、ジャケ写はなんと予想だにしなかった蜷川実花を起用!この気概はただ事じゃない。完全復帰宣言である。オフィシャルサイトも出来、ブログまで用意されているなんて、完全復帰の証拠。サイドメンにも、ジェーム・スカーター、ニコラス・ペイトンなど蒼々たる面子が並び、さらにはレジナルド・ヴィールとロドニー・ウィテカーのダブルベースの曲も!完全復帰しないとなかなかこの面子とやり合おうと思わないのではないか。混沌とした茂みを掻き分けて密林を突き進むと実は意外にも区画整理されてることに気付いて驚いたといった感じの作品。こんな興奮した作品は久々。もうスゴすぎて完全復帰の何者でもないことを確信。続けざまに3回聴き返してしまった。完全復帰、バンザイ。
パット・メセニーとの共作が続いてたブラッド・メルドーの4年ぶりのスタジオ録音盤がすごいことになってる。ラリー・グレナディア&ジェフ・バラードのレギュラートリオは勿論のこと、盟友ジュシュアレッドマンを迎えたカルテット、さらにマット・チェンバレンが加わったツインドラム、そして壮大なオーケストラ演奏!と実に多彩な座組の中で、メルドーとジョシュアが鳥肌モノのインプロを繰り広げる。「旅」をテーマにした組曲らしいのだが、旅の紆余曲折を一本のタイムライン(Twitterっぽい)にまとめ上げたのは、二度目のコラボとなるプロデューサー、ジョン・ブライオンの手腕に拠るところが大きいのかもしれない。前コラボ作(「ラーゴ」)はちとオーバープロデュース気味だったので今回もちょっと嫌な予感がしてたのだけれど同じ過ちは繰り返さなかった。過ちじゃないか。最近、「ベサメムーショ」など日本人好み(と思い込んでいる)スタンダードを演らせたり、オーディオ用の音にこだわったりすることがプロデューサーの仕事だと思い始めてたので、こんなクリエイティビティに満ちた作品を聴くとそれは間違いなのだと気付かされる。とにもかくにも、ブラッド・メルドー、新境地に達す。
ブルーノート東京のブランフォード・マルサリス・カルテット、2日目。カルデラッツォの代役、本日は小曽根真。いつものようにクレバーな演奏で、そつなくブランフォードらと絡み、安心感ある穴埋め。ブランフォードも昨日同様、素晴らしい演奏を聴かせたが、聴衆の心を鷲掴みにしたのは、ドラムのジャスティン・フォークナーだった。昨日にも増して、凄まじいドラムソロを展開して鳥肌モノ。ドラム脇の席だったせいもあって残像しか見えない程のスティックさばきに目は釘付け。まだまだ力任せなドラミングではあるが、この先経験を積めば手業は自ずと増える。恐ろしいルーキーが出現したものだ。彼がブレイクするのも時間の問題だろう。という訳で、今回のピックアップは小曽根真率いるThe Trioの作品。"The Trio"とはまた大胆なネーミング。野球で言えば、背番号3をつけるようなものだが、決してそれは傲りではなく覚悟なんだろうと思う。オープニングとエンディングを飾るタイトル曲の音は意味深な響き。ピアノトリオに真摯に向かい合った一枚。ドラえもんのテーマをジャズ化した一曲も収録。どうでもいいことだが、おそらく世界初。
ブランフォード・マルサリスのカルテットをブルーノート東京で観てきた。2006年以来、3年半ぶりの来日。自分的には前回公演を惜しくも見逃しているので実は初の生ブランフォード。曲によってテナーとソプラノを吹き分け、剛健さと繊細さの両面で魅了、特にソプラノの響きが心に沁みた。今、ブランフォードはソプラノに気持ちが傾いてるに違いない。ところで今回、レギュラーピアニストであるジョーイ・カルデラッツォの来日が遅れ、本日は08年のモンクコンペティション・ファイナリストの片倉真由子が急遽、代役を務め、きっちりとカルデラッツォの穴を埋めていた。特にカルデラッツォが作曲した叙情的な美曲「The Blossom of Parting」をどう料理するのか興味深く見守ったが、必要以上に日和ることなく片倉なりのソロを全うしていて感服。また、新たにジェフ・ワッツの後任として加わったという若干18歳(!)のジャスティン・フォークナーの体当たりの演奏にも驚いた。そのエネルギッシュさに力尽くでやられた感じだ。まだ現役のバークレーの学生らしいが、今後、どう変化していくか楽しみな逸材。アンコールではサプライズゲストとして客席から多田誠司が登場。どういう繋がりがあるのかは不明。あ、今回ピックアップしたアルバムは、そんなブランフォード・マルサリス・カルテットのピアニストという大役を担った片倉真由子のファーストアルバム。20代とは思えぬ確固たるタッチにホンモノを感じる。安心して聴ける名盤だ。
ハンガリーのピアニストDaniel Szaboは初聴き。彼がリーダーを務めるトリオにゲストを招くパターン。前回がカート・ローゼンウィンケル、そして今回がクリス・ポッター。穿った見方をすれば、商業的にフィーチャリングアーティストの知名度を利用してる風にも見えなくはないが、そんなことはどうだっていい。ポッターファンとしては、どういうカタチであれ、彼の新録が聴けるのは嬉しい限り。そんなこんなで人ん家にお呼ばれしたカタチのポッターだが、臆することなく自在にブローイング。インタープレイ的に見てこのトリオとは相性がいいのだ、きっと。内容とは関係ないが、ジャケットが凝った作りで面倒臭い。個人的にはデジパックが一番だと思うのだが。