鎌倉FMというマイナーな放送局でジャズの選曲をするようになってもう二年近く経つ。基本的にはどんな曲をかけてもいいのだが、自分で勝手にルール化しているのは、「リスナーのことを考えた選曲はしない」ということ、「その時、自分の琴線に触れたものを選ぶ」という、この二点。そうじゃないとおそらくそのうち選曲するのが苦になるからだ。そんな傲慢なセレクトなのに、意外に好評だと言うから嬉しい。で、今月はTHE BAD PLUSの新譜『FOR ALL I CARE』の中から、フレイミング・リップスのカバー曲「FEELING YOURSELF DISINTEGRATE」。同フレーズを何度も繰り返しながらバッキングと共に壮大に訴えかけるボーカルは胸を打つ。歌うのは、Wendy Lewis。不勉強ながら初めて聴く歌手だったが、彼女の芯のある力強い歌声に一発でやられてしまった。その前に、BAD PLUSがまさかボーカルアルバムをリリースするとは思ってもみなかった。何故なら、一番、歌手のバッキングに向かないピアノトリオだと思っていたから。でも、Wendy Lewisとの化学反応で予期せぬ傑作に。カバーアルバムという一面もあって、ニルヴァーナ「リチウム」、ビージーズ「愛はきらめきの中に」、ハート「バラクーダ」などを演ってたりする。日本盤だけに、ボーナストラックとしてデビッドリンチの映画でも有名な「ブルーベルベッド」が収録。それが聴きたいがために後発の国内盤を買い直してしまった。またしてもレコード会社の策略にはまった。アホだ。
ブルーノート東京にて、Dee Dee Bridgewaterのライブを鑑賞。以前、同ライブハウスで観たリチャードボナもそうだったが、黒人の特権的才能ともいうべきリズム感に心酔し、時折、繰り出す管楽器のごときスキャットに唸る。その上、底抜けに明るいエンターティナーとあって、最後はライブ会場内総立ち。久々に楽しい時間を過ごさせてもらった。昨年リリースされたこのアルバムは、そんな彼女が自身の原点であるアフリカ回帰を試みた作品。ジャズとアフリカ音楽の融合。今回のライブでもそれが披露されていて、至福。タイトルの「RED EARTH」とは、故郷のマリに広がる大地の赤土の色らしい。民族音楽好きにはたまらない一枚。
マイティペイチの人気盤(通称「踊り子」)がSHM-CD盤で再発。往年のジャズファンは(おそらくクラシックファンも)「音がいい」という言葉に弱い。やれ20ビット盤が出たとか今度は24ビットだとかSACD盤も出たとか録音技師のルディ・ヴァン・ゲルダーが新たに録音し直したとかレコード会社は色んな誘い文句で再発を繰り返す。音楽を聴かずに音を聴いている、というのもよくある批判だけど、やはり慣れ親しんだ作品が「いい音」で聴けると言われたら、つい聴いてみたくなるのが人情。そして、一度その違いに感激したが最後、再発地獄に陥ってしまうのだ。こんな往年の名盤を買って聴いてると自分が"感性の止まった中年"に思えてきてゾッとする。でもつい興奮してしまうのだ。「ああ、アートペッパーとバックのオーケストラの音が立体的になってる!!」と。で、好きなスタンダードナンバー「If I Were A Bell」を何度も繰り返し聴いてしまうのだった。
台本書きに気乗りしない時は決まってその対処法として音楽を流すことにしている。気分転換ではなく、考え方の転換。音楽を流すことにより「台本書きを強いられている」のではなく「音楽を聴いてる傍ら手持ちぶさたなので台本を書いている」と思い込むのだ。そうすると気分が楽になり、意外と苦にはならなくなる。ただ、弊害もある。通常よりもはるかに時間がかかることだ。本日もなかなか台本書きが進まないので、久々にこのジョシュアレッドマンの一枚を取り出して流し始めたのだが、途中から台本そっちのけで音楽に集中してしまった。ソニーロリンズがはじめたサックストリオ編成(サックス+ベース+ドラム)で作られた傑作。曲ごとにメンバーが異なる贅沢盤。ベースにはラリー・グレナディアやクリスチャン・マクブライド、そしてドラムにはブライアン・ブレイドなどのテクニシャンたちを迎えての変則トリオ。ロリンズをはじめ、サックスの巨人たちに敬意を払い、伝統を受け継ぎながらもその型を破る演奏の数々に否が応でも耳と時間が奪われてしまう。だから、急ぎの仕事の時には絶対に流しちゃいけない一枚。勿論、大幅に締め切りを破ってしまった。
先月発売されたソニーロリンズのライブ名演集『ロードショーvol.1』を聴いていて、どういう訳か無性にこのアルバムを聴き直したくなった。ピアノやギターのソロアルバムはよくあるが、これは前代未聞のテナーサックスのソロアルバム。今から20数年前にニューヨーク近代美術館の庭園につくられたステージで行われたワンマンソロライブなのだが、驚くのはこの時、ロリンズは55歳だったってこと。55歳って。そんな歳で"56分03秒"も延々テナーを吹き続ける体力と想像力があるのがすごい。レコードで発売された時は物理的にそのソロはA面とB面で分断されていたが、CDでは当然のことながらそれはなく、曲目欄にはただ一曲「Soloscope」とだけ表示される。あらためて見ると、なるほど、含蓄あるタイトルだ。